氷の美女と冷血王子
さらなる逆風
川崎紙業の件が無事解決して1週間が過ぎた。
新規事業は本格的に動き出すことになり、専務も益々忙しくなった。

「青井君、午後からの資料は準備できてる?」

「はい、先ほどお持ちしましたが」
「ああ、あった」
デスクいっぱいに書類を広げ、電話を片手に資料をめくる専務。

最近はお昼をとる時間もなくて、おにぎりやサンドウィッチ片手に済ませてしまうことが多い。
最初のうちは「体に良くありませんから」と反対したけれど、「時間がないんだ」と言い切られると強くは止められない。
しかたなく、少しでも栄養のあるものをと毎日私がお昼を作ってくるようになった。

「専務、せめてお弁当にしませんか?」

できればお弁当を食べて欲しくて、お弁当とおにぎりやサンドイッチの軽食も両方を用意してきている。
しかし、「こっちがいい」と軽食の方をとられてしまう。
本当はもう少し、ちゃんとした食事をして欲しいんだけれど。

「ああ、そうだ。午後からは河野副社長も同行の視察だから、君は残っていていいよ」

「はい」
河野副社長と聞いて、声のトーンが落ちてしまった。

川崎紙業の騒動の黒幕である河野副社長は、なぜか責任追及されることもなく会社に残っている。
それが私には気に入らない。
しかし、その話をしようとすると専務はすぐに不機嫌になり、黙ってしまう。
それでは私も仕事にならないから、結局その話題は避けている。
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