氷の美女と冷血王子
専務が社外に出て行った午後、私は一人残務をこなした。

専務がいなければ来客もないし、用事を言いつけられることもない。
こんな日には普段できない片付けをしてゆっくり過ごせる。

トントン。

ん?

ノックされたのは専務秘書室のドア。
専務不在なのはわかっているだろうに、何だろう?

「はい」
ドアを開けると、そこにいたのは徹だった。

「お疲れ様」
「お疲れ様です。どうしたんですか?」

まずそう聞いてしまうほど、厳しい顔をしている。

「ちょっといい?」
「はい」

普段ならこちらの都合なんて聞くことなく、もっと言うならノックさえせずに入ってくる徹が、今日はおかしい。


「どうぞ」
徹に秘書室のソファーをすすめ、私も向かい合って座った。

「どうかしたんですか?」

何もなければ、こんな顔でやってくることはないと分かっていても、まずはそう聞くしかない。

「青井さん」

いきなり名字で呼ばれて驚いた。

「はい」

普段2人の時には『麗子』と呼ばれているから、きっと今はプライベートではないって事だろう。

「いくつか聞きたいことがあります」
「はい」

きっと良くない話しだろうと感じ、私は姿勢を正した。
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