氷の美女と冷血王子
半日かけて荷物の片付けをして、その日の夕方には大体整理できた。
もう会えないと思うと寂しさで一杯だけれど、これが最善策と自分に言い聞かせた。

「お世話になりました」
もう1度室内を見回して、私はドアの前で頭を下げる。

自宅に戻っても、実家に帰っても、すぐに見つかってしまうだろう。
いつまでも逃げ続けるつもりはないけれど、今は少し時間が欲しい。
そんな思いから、私は都心のマンションへ向かった。



そこは駅近で交通の便利がいいのが魅力の分譲マンション。
私が住むところより少し広めの2LDKのファミリータイプの部屋。
実はここ、私の祖母が管理している部屋。
母さんの母さんである祖母は若い頃から自分で事業をしていて、70を過ぎた今でも不動産業を営んでいる。
その祖母に頼んで、この部屋をしばらく使わせてもらうことにした。

「隠れ家にしては随分贅沢よね」
つい、独り言が出てしまった。

私はここでしばらく頭を冷やそうと思う。
28にもなって恥ずかしいけれど、初恋の痛手からはそう簡単に立ち直れそうもない。

ブーブーブー。
さっきから、携帯が鳴っている。

きっと孝太郎からだ。
今日はメールも着信もすべて無視しているから、心配しているんだろう。

ブーブーブー。
何度もしつこく鳴る着信。

明日もう1日香港での仕事が残っている孝太郎に心配をかけて申し訳ないけれど、今は気持ちを整理する時間が欲しい。



自分でも意識しないうちに私は疲れていたらしい。
マンションに着き、荷物を整理することもなく、少しの間だからとソファーに寝転んだら朝になっていた。

そう言えば一昨日の晩も寝られなかったんだった。
仕事用のスーツのまま、食事もせずに眠ってしまった理由に気づき1人納得した。

「さあ、買い物にでも行こう」

しばらくはここにいるつもりだし、日用品だって食料だって最低限の物はそろえる必要がある。
それに、昨日の昼から私は食事をしていない。

久しぶりにきちんとメイクをしてスーツではなくジーンズをはいて、.私は出かけることにした。
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