氷の美女と冷血王子
トントン。

「今日は休めば良かったのに、出てきたのか?」

呼んでもないのに、ノックの返事を待つこともなく入ってきた徹。


「昨日はすまなかったな」

言いたいこともあるが、まずはそう言うべきだろうと思えて、頭を下げた。

「いいさ、貸し1つだ」
「はあ?」

きっと冗談なんだろうが、笑えない。

「あいつと話せたのか?」
「ああ」

「で、どうするんだ?」

「どんなに説得しても、秘書に戻る気はないらしい」

「諦めるのか?」

「いや、気長に説得する。麗子がいなくなれば俺の仕事に影響が出るから」
「だろうな」

フン。
俺だって彼女の有能さは分かっている。
今さら手放す気はない。

「それで、お前達は別れるのか?」
「・・・」

随分あっさり言われて、答えに詰まった。

「そんな訳ないわな」
「ああ」

「ハハハ。お前が女を追いかけて仕事を切り上げて帰ってくるなんて」
おかしそうに俺を見る徹。

「悪かったな、勝手に笑っていろ」

普段なら絶対にこんな事は言わせないが、今はしかたがない。
徹には醜態をさらしてしまったし。

「それで、あいつは今どうしているんだ?」

「ばあさんが管理しているマンションに隠れている。夕飯を用意しておくって言っていたから、お前も来るか?」

「いいよ。お邪魔虫にはなりたくない」
「そうか?」

きっと喜ぶと思うがな。
< 153 / 218 >

この作品をシェア

pagetop