氷の美女と冷血王子
事件の兆し
麗子と2人、朝方まで眠れなかった。
他愛もない昔話や好きな本や映画の話、徹の愚痴まで言い合って過ごした。

肌を寄せ合い、共に横になるだけでいい。
麗子の気配がそこにあるだけで、俺は幸せだった。

「もう、どこにも行くな」

強情な彼女は秘書に戻るとは言ってくれないが、「もう逃げない」と約束してくれた。
今はそれで十分だ。
ゆっくりと時間をかけて近づいていければいい。



昼過ぎになってやっと起き出した俺は、会社へ向かうことにした。

「行ってきます」

元々今日は帰国予定の日だったから、重要なスケジュールは入れていない。
せっかくだから麗子と2人ゆっくりすごそうかなと思ったりもしたが、やはり仕事のことが気になった。

「いってらっしゃい。気をつけてね」
玄関まで見送ってくれる麗子。

フフフ。
なんだかうれしいな。

思わずニヤケてしまいそうなのを必死にこらえる。


麗子の隠れていたマンションは都心にあって、会社までも地下鉄で数駅。
行こうと思えば自転車でも行ける距離だ。

いっそのことこの辺りにマンションを買おうかな?
そうすれば毎日麗子と過ごせる。
30前にもなって実家暮らしっていうのも色々不便だし。


この時、俺は浮かれていた。
麗子と気持ちが通じたことで、明るい未来が待っていると楽天的に考えていた。
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