氷の美女と冷血王子
親友、香山徹の苦悩
「ったく、お前もバカだなあ」
差し出されたビールに手を伸ばしながら、つい愚痴が出た。

「徹、もういいわよ。いい加減やめて」
うんざりした顔をする麗子。

ここは麗子の母さんが営むバー。
俺は、このところ週2のペースでここに顔を出している。


麗子が誘拐され、孝太郎が救出してから1ヶ月。
麗子は、最後まで誘拐されたとも、監禁されたとも言わなかった。
こいつは一体何を考えているのかと腹立たしくも思ったが、その頑なな態度のお陰で事件は大事にならずにすんだ。

もちろん、麗子はケガをしたし、縛られ拘束されているのを俺たちも警官も目にした。
倉庫も孝太郎によって破壊されてしまったし、何かあったのは一目瞭然なわけだが、「私が三島さんを誘った」「自分の意志でここへ来た」「訴えるつもりはない」と言い続けられれば、打つ手がなかった。

「結局、お前1人が貧乏くじを引いたんじゃないか?」

体を傷だらけにして、怖い思いをして、何の得があるって言うんだ。

「私が良いんだから、放っておいて」

口をとがらせ俺のビールを注ぐ麗子の腕が、さらに細くなった気がする。

「ちゃんと食べているのか?」

たった1ヶ月の間に、また少し小さくなった。

「大丈夫よ。そのうち元に戻るから」

「そうか」
それなら良いが。
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