氷の美女と冷血王子
立ち止まり、

「うーん」
困ったように振り返った徹。

「深い意味はないんだ。ただ、」
「ただ?」
「お前に見せたい人がいる」
「見せたい?」

会わせたいじゃなくて、見せたい。

「ちょっとした知り合いなんだ。向こうは俺のこと覚えているかどうかもわからないけれど、」

フーン。
何か特殊な才能を持った人物とか、うちの会社にヘッドハンティングしたい奴とか、そういうことだろうか。
まあ、徹が勧めるからには間違いはないだろう。

「すげー美人なんだ」
「はああ?」
随分間の抜けた声を出した。

「女?」
「ああ」
「美人?」

ウンウンと頷く徹。

「俺たちは女の顔を見にこんな裏通りまできたのか?」
「ああ」

ああって、冗談だろ。

「お前の彼女ってことでは」
「ないな。今は仕事が忙しくて、そんな暇はない」

だよな。
じゃあ、なぜ今ここに?

「お前、何を企んでる?」
「何も企んでなんかいない。とにかく美人だから、見て損はない。それに、こんな所までこなきゃお前とゆっくり飲めないじゃないか」
「それはまあ」
一理あるが。

いくら幼なじみとは言え、会社の入れば俺は社長も息子で徹は社長秘書。
むやみに親しげな行動はとれないからな。

「俺が戻ってきて、働きにくいのか?」
以前から多少気になっていたことを口にしてみる。

「バカ、んな訳あるか」
一蹴された。

そうだな。お前はそんな奴じゃない。
社内では社長の腹心と言われ、アメリカ帰りの息子よりよっぽど信用も力もを持っているんだからな。
じゃあなぜ?
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