氷の美女と冷血王子
「鈴森商事でお目にかかりましたね?」
彼女の方が切り出してくれた。
「ああ」
確かに会った。

「その節は、出過ぎたことをして大変申し訳ありませんでした」
「いや、こちらこそ。お世話になったのに、失礼な言い方になってしまい申し訳なかった」

社員の窮地を助けてもらったからには、まず礼を言うべきだったと後になって後悔した。

「もしかして、抗議に見えたわけでは・・・」
一瞬、表情を曇らせた彼女。
「違う違う」
慌てて手を振り否定した。

「礼も言わずに失礼な態度をとったことを謝りたかったし。それに、」
「それに?」

まさか、君のことが気になってしかたがないとは言えず、
「いくつか確認したい点があったものだから」
と言うしかなかった。

「確認ですか、どうぞ何なりと」
彼女は手を膝に置き、俺の方を向いた。

そう真っ正面から来られると、照れてしまうんだが・・・

「えっと、君はこの店で働いているんだよね?」
「ええ。ここは母の店なので」
「じゃあ、花屋の配達は?」
「あれは、バイトです。人手が足りないらしくて、週1で頼まれているんです」

フーン。
バイトねえ。

「バイトって言っても、うちの会社はただの配達ではなくて、アレンジングもするんでしょ?バイトにできるの?」

センスや経験がなければできる仕事ではないと思うが。

「高校時代はずっと花屋で働いていたので、一通りのことはできるんです」
「へー、すごいね」
素直な感想を口にした。

重役フロアは来客も多いから、いつも花を飾っている。
もちろんプロに頼んでいるから綺麗で当たり前だと思っていたんだが、彼女がしていたのか。
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