氷の美女と冷血王子
「他にご質問は?」

「えっと、何でパソコンに強いの?」
そう、それが一番気になっていた。

実はあの後SEを呼び秘書のパソコンを確認させた。
社用のパソコンではなかったが、一応心配だったし、彼女が何をしたのかも気になった。
しばらくパソコンを操作していたSEの答えは、『問題なく、完璧に修復されている。これだけ短時間に修復したと言うことは、よほど知識のある人だと思います』と言うものだった。

「私、大学は工学部で情報工学の専攻でしたので」
「大学はどこ?」
「早慶大です」

オー、一流じゃないか。

「じゃあ、君、SEなの?」
「いえ、今はこの店と花屋のバイトだけです」

え?
「何で?」
それはあんまり、もったいないだろう。

「色々と事情があるんです」
そう言ったきり、口を閉ざしてしまった。

俺も言いたくないことを聞こうとは思わない。
今の話で大体の事情はわかったし。


「あら、お客さん?」
ビールを口に運ぼうとした俺の手元を、ママが指さした。

ん?
向けられた視線の先は上着の袖口。

アッ。
ボタンの一つがとれかかっていた。

そう言えば、出がけに引っかけたんだった。

「麗子、付けて差し上げなさい」
さも当然のように言い、彼女がどうぞと手を差し出す。

「いや、いいよ」

遠慮ではなく、一応オーダースーツである以上ボタンの付け方にも糸にもこだわりがある。素人に触られたくはない。

「大丈夫です、おかしなことはしませんから。これでも裁縫は得意なんです」
「え?」

目を丸くした俺の後ろに回り、上着に手を掛ける彼女。

「あの、本当にいいんだ」
「いいから任せなさいって」
いくら断ってもママは引きそうもなく、俺は諦めて上着を託した。
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