氷の美女と冷血王子
「いつも、こんなやり方をするんですか?」
「え?」

彼女の口調が思ったより強くて、驚いた俺は顔を上げた。
キッと強い視線が俺に向けられている。

「強引だった、よな?」
「ええ」

実際に、徹がどんな手を使ったのかまで俺は知らない。
でも、何度も断られているのにしつこく言い続けたのは事実だ。

「気分を悪くしたのなら謝る。申し訳なかった」
「今さらですか?」
すっかりいつもの彼女に戻った。

彼女の言うことももっともだと思う。
けれど、

「どうしても君に来てもらいたかったんだ」

それは正直な気持ち。

「私は、目立たずひっそりと暮らしたいんです。秘書なんてやりたくありませんし、こんな大企業に勤める気もないんです。だから、何度も断ったのに・・・」
膝の上に置いた手をギュッと握りしめ唇を噛む。

その姿に、少しだけ罪の意識がわいてきた。
なんだか申し訳ないことをしたのかもしれない。

「すまない、そんなにイヤだったのか」
「そうです、イヤだったんです。それなのに、徹を利用して母さんから攻めるなんてやり方が汚いですよ」
「申し訳ない」
完全に俺が劣勢だ。

「母さんはいまだに、私の将来に夢を持っていますからね。『鈴森商事に就職できる』なんて言えば大喜びするんです。わかっていて話した徹が一番悪いんですが・・・」
ブツブツと文句を言い続ける。

「違うんだ、俺がどんな手を使ってでも連れて来いって言ったんだ。だから、徹を責めないでくれ」

あいつは忠実に仕事をしただけだ。

「それは、どうしてですか?理由を聞かせてください」
真っ直ぐに真剣な目が俺に向いていた。
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