氷の美女と冷血王子
「寝るならベットで寝ろよ」

こんなところで寝れば、いくら寒い季節ではなくても風邪をひいてしまう。
それに、

「なあ、着替えなくていいのか?」
すっかり目を閉じてしまった彼女の肩を叩きながら、声をかける。

明日の朝起きて、シワシワになった服を見て嘆くのはお前だぞ。

バタンッ。

ええ?
急に彼女が動き出した。

「せっかくのワンピースが」
そう叫ぶと、立ち上がり服を脱ぎだした。

え、嘘だろ。

「ちょっと待て。ここで脱ぐな」
とっさに止めた。

しかし、半分目を閉じた状態の彼女は無意識のように服を脱いでいく。

マジか。
これは拷問だ。

しかたなく、俺は彼女に背を向けた。

ガサゴソと服を脱ぎ、着替える気配がしていた。
しばらくして、
バタン。
ベットに倒れ込む音。

フー。
部屋が静かになったところで、後ろを振り返った。

今日着ていたワンピースはハンガーに掛けられ、荷物も綺麗に片づいている。
そして、彼女はベットに横になっていた。
身につけているのはTシャツと短パン。
きっと部屋着なんだろう。

「専務」

えええ?

いきなり彼女が目を開けた。

「お前眠っていたんじゃ」

「いいえ。さすがに寝たまま着替えて、着ていた服を片づけることまではできません」

そりゃあそうかもしれないが。

「じゃあ、」
演技か?

「あの・・・少しだけお話をしてもいいですか?」

「あ、ああ」
頭の中がハテナでいっぱいの俺に、拒否する選択はない。

「あの・・・向こうを向いてもらって良いですか?」
「はあ?」

「お願いします。恥ずかしいので」

こいつは、何か恥ずかしいことを言おうと思っているのか?

「わかった」
何なんだと思いながら、俺は彼女に背中を向けた。
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