氷の美女と冷血王子
「すみません、言い過ぎましたか?」

俺の言葉が強く聞こえたらしく、彼女が謝ってきた。

「そんなことない」
言い方がぶっきらぼうだっただけで、意図はない。

「だって、怒ってるでしょ?」
唇を尖らせる彼女。

はあ?
「お前、酔ってるだろう」

レストランでもかなりワインを飲んでいたし、酔っ払っても不思議ではないんだが・・・

「そんなことありません」

嘘つけ。

目はトロンとして、顔は紅潮し、普段の凜々しさは消えている。
この状態の彼女は、危険だ。
無防備すぎる。

こんな姿、他の奴にも見せたことがあるんだろうか?
いや、ないな。
今まで誰とも付き合ったことがないって言っていたし、そもそもこんな状態の彼女を見てなんとも思わない男なんていないはずだ。


「専務はお酒が強いんですね」
何杯目かの水割りを空けながら、俺を見上げる彼女。

「ああ、そうだな。仕事で随分鍛えられたから」
「アメリカ支社、大変だったんですか?」

「結果重視の国だから、社長の息子だろうと関係ないと思う人間が多かったな」
「苦労されたんですね」

苦労ねえ。
あの、アメリカで過ごした時間は苦労とは感じなかった。

「俺にとってアメリカ支社は居心地の良い場所だったよ。返って日本にいたほうが俺は窮屈さを感じている」

「窮屈ですか・・・」
言いながら、パタンと彼女は机に突っ伏した。

こいつはどこまで隙だらけなんだ。
襲うぞっ。

「おい、寝るなら帰ろうか?」
「いいえ。まだ寝ませーん」
「良いからもう寝ろっ」

このままじゃ、俺の忍耐もどこまで持つかわからない。
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