氷の美女と冷血王子
ピンチ!
「専務、コーヒーを入れましょうか?」

会社に着き朝の準備を終わったところで聞いてみる。
いつもは必ずコーヒーを入れることにしているけれど、今日はすでに家で飲んだし、

「いいよ、また後で頼む」
「はい」
やっぱりそうよね。

昨夜、専務と一夜を過ごしてしまった私は一緒に朝食を食べてから専務の車で出社した。
「電車で行きますから」と何度も断ったのに、「もう、うちの車を呼んでしまったし、同じ所に向かうんだからいいだろう」と押し切られ断れなかった。
やっぱりうちの王子様は押しが強くて困ってしまう。
まあ、そこが惹かれた一因でもあるんだけれど。

「・・・君、・・青井君」

え、
「ああ、はい」

マズイ、ボーッとしていた。

「今日の会議の資料は?」
「はい、今」

用意していた資料を手に専務のデスクの前に立つ。

「具合が悪いのか?」
チラッと私を見上げる視線。

「いいえ」
あまりの急展開に心と頭がついていかないのは間違いないけれど、体調が悪いわけではない。

「少しでも辛いなら帰ってもいいぞ。徹には俺が言っておくから」
「いえ、大丈夫です」

専務が徹にどう説明するのか、考えただけで恐ろしい。

「昨日は随分無理をさせたんだ、その責任は俺に」
「あの、専務。本当に大丈夫ですので、もう言わないでください」
かぶり気味に言葉を遮った。

こんなところで昨日のことを蒸し返されたら、恥ずかしくて死ぬ。

「そうか、じゃあしっかり仕事をしてくれ」
「はい」

うーぅ。
なんだか専務にペースを握られているようでしゃくに障る。
でもしかたないか、昨日は私が誘ったんだから。
< 92 / 218 >

この作品をシェア

pagetop