氷の美女と冷血王子
昨日、山川さんにコーヒーをかけられスーツを汚してしまった私は帰ろうとしたところで専務と出くわした。

当然汚れたスーツのことを聞かれ、答えられずうろたえた。

いつもの私なら冷静に切り抜けたと思うのに、いきなり専務に抱きしめられ、「辛ければ泣けばいい」なんて言われて、不覚にも涙がこぼれた。

今まで、あんなに無遠慮に心の中に入ってくる人はいなかった。
だからかな、専務の側にいたいと思った。
この人なら、私を受け入れてくれるんじゃないかとも感じた。

それからは、高そうなブティックへ連れて行かれ、雑誌で見たことがあるようなフレンチのお店の個室に案内され、夢のようだった。
うれしさ半分、住む世界の違いを見せつけられたような寂しさ半分。
複雑な気持ちで、食事を味わった。
一緒に出されたワインもとっても美味しくて、いつもよりかなりお酒も飲んだ。
アルコールが入り気分が大きくなった私は、自分から「うちで飲み直しましょう」と誘った。
あんなこと、お酒が入っていなければ絶対に言えない。

あとは・・・
酔っ払っていて、記憶も曖昧。

ただ・・・
買ってもらったワンピースがシワになるぞと言われ、慌てて服を脱ぎ、

それから・・・
自分から「好きです」と告白した。

そして・・・
専務と寝てしまった。

あまりにも大胆な行動に、自分が一番驚いている。
私の知っている青井麗子は、そんなことができる人間ではなかったのに。

何がそうさせたのか、
お酒?
それもあるけれど、それだけじゃない。
山川さんのせいで心が弱っていたから?
私はそんなに弱くはない。
それじゃあ・・・
やっぱり専務かな?
服も食事も夢みたいだったし、何よりもいいからついてこいって言われることに慣れなくてキュンとした。

あーぁ、どっちにしても一晩の夢だったってことね。
専務には申し訳ないけれど、私の初めてを素敵な人にもらってもらった。

うん、いい思い出にしよう。

「オイッ」

ええ?

頭を上げると、怖い顔をした専務がデスクの前にいた。

ヤバッ。
また、ボーッとしていた。
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