死んでもあなたに愛されたい



――ザアァァ……!



風が吹きすさぶ。


木々を震わせ、花弁を奪い去り、肌を切り。

たしかにふつうではない、凍てついた風が、たった独りの女の子を守るように巻き起こる。


グレーの髪の毛が、舞い上がった。


何もわかっていない娘を抱きながら、恐れおののく親たちが、そろって目を見開く。

血の気がどっと引き、滝のように汗を流す。


異様で、不可思議な、光景だった。



「ひ、ひぃ……っっ」

「……めて……やめて、来ないで」

「キモチワルイ……!」



オトナが子どもに、いいや、人が人に伝えるべきではない感情で満ちている。


親も子も、多数派の脅威を振りかざしていたにもかかわらず、畏怖、非難、嫌悪、そのすべてを、か弱げな少女の身ひとつへとグサグサに突き刺していた。


風は止まない。
ひらり、花弁や葉が散っていく。


逃げるように去っていく彼らを、少女は呆然と眺め続けた。

あの小さな小さな背中が、人知れず泣いているよう。



と、ぐらり、あの背中がかたむいた。




「あ、」


「……っ、うぉえ」


「!!」




とっさに駆け寄り、支え、……おどろいた。


顔色がわるい。


それよりも。

Tシャツに、赤いシミがついていた。




「これ、血、か……?」




口の端から、たらり、垂れる血反吐の跡。

不安定な息づかい。


熱中症、じゃ、ねぇよな……?



手が震えた。

この感情が恐怖だと気づくには、あまりにも余裕が足りなかった。




「と、とりあえず、救急車……っ」


「や、め……っ。びょういん、い、や……」


「は!?」




それを最後に、女の子は意識を失った。


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