イケメン拾った!魔法を隠して慎ましく?スローライフ…できてない!!
ライアン・キュリー
「………ここは?」


見知らぬ天井、寝慣れないベッド。
日の光がやたら眩しく2度ほど瞬きをする。

ー俺はいったい……魔女討伐に向かって、熊に襲われて隊の半分やられて逃げ切ってそれから……豪雨の土砂崩れに巻き込まれて、運良く助かった後に遭難して森を…ー

自分でも笑ってしまいたくなるほど不運な出来事だらけである。
マルクス国第二騎士隊長、ライアン・キュリー。先日、国王陛下より勅命を受けた北の果ての魔女討伐。崩御なされた先代国王がかつて滅ぼした魔力持ちが誕生するといわれる小さな集落があった。
表向きは集落保護だったが、力を欲した国王が魔力持ち狩りをした結果だそうだ。
抵抗した村人は魔力持ちではなかったそうで壊滅。
巫女として育つはずだった赤ん坊を念のためと拐ったが帰国の途中に何らかの事故があり行方不明になった……集落の惨劇と赤ん坊を憂いた当時の宰相であった父が酔ってただ一度溢したのを覚えている。
生きているかもしれないあのときの赤ん坊が…それが元国王に代わった途端に親譲りの欲を出したわけだ。
「見つけ出して捕らえろ。父上の話ではあの事故はとても不自然で不思議なものだったと聞く。きっと生きているはずだ。巫女として生きるものは皆見目良しとされているというし……」

先王が戦狂いなら国王は色狂いだ。美姫に目がない。手に入れるためには手段を選ばない。
正直、狂王のお陰で国は傾きかけている。近隣諸国に攻めいられるのは時間の問題だ。

「ライアン・キュリー第二騎士隊長。己が隊を率いて魔女を捉えよ。なに、王宮での生活に魔女めも目が眩むだろうさ」

下卑た笑いを浮かべて蓄えた顎髭を撫で付ける。

「…恐れながら」

騎士の礼のまま握った拳に力が入る。また繰り返すというのかこの王は…

「我が隊は明日より南の辺境伯爵のもとへ応援要請を受けております。存在するかもわからない魔女討伐へは赴けぬかと…」
「我に逆らうのか?己が父のように」

宰相の父は代替わりの際に色々な進言、苦言を訴えたためにその地位を追われ南の辺境に移ったのだ。一番攻撃を受けやすい場所へ。文だけならず武の才も秀でた父は何年も食い止めてきたが、ただ一度助力を今回求めてきたというのに、だ。

「ふん…まぁ、よい。では我の私兵を一旅団貸してやるから己が隊のみ南にやれ」
「……」

握る拳から滴る己の血の感触のみがなんとか斬りかかりたい衝動を押さえてくれた……
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