イケメン拾った!魔法を隠して慎ましく?スローライフ…できてない!!
「あはは、汗かいた後だから気持ちいいでしょ?」

しなやかな身体を惜しげもなく使い、自由に泳ぐマキアージュ。そして束ねていた髪を外した。ふわりと水中に舞う金糸のような髪が更に人魚を思わせる。

「手を貸してよ」

スィッとライアンに近寄ると両手を取ると顔を出したまま後ろ向きに泳ぎ出す。

「力を抜くんだよ」

そう言うマキアージュの身体は今、ライアンの身体のすぐ下に平行に位置する。
気耐え抜かれたその腹筋にはマキアージュが足を動かす度に起こるフワッとした水圧が都度感じられるため意識しなくとも妙な感覚が身体を支配して行く。ライアン自身足を動かすのを忘れるほどに。

「…っ!?」
「わっ…」

くいっとマキアージュが進む方向を変えたため、強い水圧が腹部に当たったライアンは思わず身体に力を入れてしまい、一瞬で水に沈んでしまう。全身筋肉のライアンに浮力なんてないんだし当然の結果である。
そして同じく当然なのは平行下に位置するマキアージュもまた同じように水中にしずむのだ。

ーしまった…!ー

一瞬慌てたライアンはマキアージュの心配をした。だが目があったのは金糸をその身に纏わせたにこやかに微笑む人魚だった。マキアージュだが。
片手をライアンから放し指で身体を仰向けにするよう指示を出した。
戸惑うライアンに今度は握っている反対の手を軸にマキアージュが身体の回りをくるりと回りライアンの背中に位置取ったのだ。

ー……!!ごぼっ!ー

金糸を我が身にも纏わせピッタリと背中に張り付かれたライアンはビックリして肺に残ってる僅かな空気を吐き出してしまった。
でも慌てることはなかった。
背後に回ったマキアージュは直後からライアンが驚くスピードで浮上したのだから。

「ぷはっ…げほっ」
「あはは、面白かったねぇ」

無事新鮮な空気を腹一杯吸い込めたライアンは恨めしそうに背後を除き込む。
実に愉快そうなマキアージュだ。今は立泳ぎのライアンにぶら下がっている。空気かと思うくらい負担がない。

「ほんとに君は…」
「はいはい、今度は岸に戻るよー」

いつの間にか対岸まで着ていた事に今頃気づいた。

「今度は二人とも背面ー。ライアンは私が運びます。力抜いてくださーい」

すいーっとなんの抵抗もなく仰向けにされるライアン。首回りには金糸が滑らかに的割りつく。そして真っ白なすべらかな細腕も…
しかし、並みの男でも叶わないほどに早い。そうなんの抵抗もなく早いのだ。
抵抗、そう抵抗はあった。

「あっ、こら意識ない役は動くな」
「当たってるんだが…」
「え?」
「頭に…その」

なにが?ライアンの頭に乗っかった二つの丘……
じぃさんには邪魔でしかない物と散々悪タレつかれたこの丘に免じて陸の現場検証、忘れてくれないだろうか。
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