つまり、会いたいんです。
「でも、なんで?」
「寝落ちしても大丈夫でしょ」
そっか。画面を見ると天井らしき薄暗い何かが写っているだけだった。

「榛瑠?」
「すぐ戻る」

少し遠くから声とカチンという高い音がした。グラスを片付ける音だろうか?
一花はスマホをシーツの上に置くと、しばらく黙ってそれを聞いていた。

動いている音、生活してる音、生きている音。
自分の指先を画面の上に置いてみる。

「一花?」
戻ってきたらしい榛瑠の声が聞こえてくる。

「手を置いて」
自分の指の間から榛瑠の指が見えた。一花は横になりながらそれを見て微笑んだ。

「なんか、あったかい気がする」
「……」

スマホの熱だってわかっているけど、画面を通して熱が伝わればいいなって思う。

「あのね、本当はね、……一番してもらいたいことはね」
「うん?」
「……ぎゅーって抱きしめて欲しいよ……」

息もできないくらい、ぎゅっと。そして私も抱きしめ返す。温かさを全身で感じたい。
それから頬をいつものちょっと冷たい指先で触れて欲しい。
それで明るい光の下で笑い合いたい。

ねえ、そんなことだよ。



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