つまり、会いたいんです。
「でもさ、それはそれとして、でしょ?手洗いしないと。ご飯の前だし!」

そう言って一花は石鹸の泡のついた手をパチパチと叩いた。泡が跳ねる。榛瑠が後ろでクスッと笑うのがわかった。

しまった。つい、子どもっぽいことをしちゃった。

「いいよ、正しいよ」榛瑠は笑いを含んだ声で言うと一花の後ろに立った。「髪伸びたね」

「え、あ、うん」背中に存在を感じて一花の声が硬くなる。「美容院行ってないから」

「このままで可愛いよ」

下ろしている髪に触れられるのを感じて、ますます一花は体に力が入った。

鏡を見ると、自分の後ろで榛瑠が髪にそっとキスしているにが写っている。

「あの、え…と、手が洗いにくいからどいて?…ほしいな」

「うん」

そう答えながら榛瑠は露わになった一花の首筋に唇で触れた。

「ひゃっ」

びくっとして思わず声が出た一花は途端に恥ずかしくなる。

榛瑠は何事もなかったよう離れると、一花の頭にポンと手を置いて「先にリビング行ってるね」と出て行った。

一花は一人になると、手に泡をつけたままその場に座り込んだ。

だめだわ、久しぶりすぎて、なんだか心臓がおかしい。
あーやだ、何これ。昨日今日付き合い始めたわけでもないのに、なにこれ。やだもう。

立ち上がって水を出し手の泡を洗い流しながら目の前の鏡を見つめる。

大丈夫よね、顔が赤くなってないよね。あんまり笑われるようなことしたくないんだけど…。

鏡の中には心もとない顔をした女性がいた。
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