つまり、会いたいんです。
榛瑠が腕を緩めると、キスしようと顔が近づいてくる。それに応えようと目をつぶってはっと気づいて押し返した。

「だめ。先に手洗いうがい!」

「そうなの?」

榛瑠が顔をしかめる。

「だめったらだめ。どいて」

一花は榛瑠の腕からのがれると、洗面所に向かった。

「それは、まあね、正しいのですけど」

後ろからついてきた榛瑠は洗面所のかべに軽くもたれながら、手を洗い出す一花に言った。

「そうよ、正しいの。大事。油断大敵」

それにね、ほんと言うと、マスクしてた後にキスするのって、ちょっと、なんだか心配なんだもん。

「まあ、そうですけど」榛瑠は続けた。「でも、あなたさ、自分の部屋を出てからここまで何にも触ってないんじゃないですか?屋敷の玄関だって嶋さんが開けるし、運転手の高橋さんが車の開閉はしてるし、ここのエントランスまで高橋さん来てたでしょう?」

「うん、エレベーターのボタン押すまでやってくれたよ」
そう言いながら、一花は自分の行動を振り返る。

そういえば、扉の開け閉めはしてないなあ。でも、何にも触らなかったわけではないはず……。

「あ。車に乗ってるときに座席に触ってる!」
「あの車の後部座席に、そもそもあなた以外だれが乗るの?」
「あ……」

確かにそうだわ。私しか乗らない……。いや、でも。

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