前世が猫の公爵は令嬢に撫でられたい
「ルル様!ルル様!!」

ルーカスが次に何を言うべきか頭をフル回転させていると、どこからか声が聞こえてきた。


「もしかして、この猫ちゃんでしょうか?」

オリビアが自分の腕の中にある子猫に目を向ける。猫に敬称をつけるのはおかしな話だが、この猫の飼い主が貴族で、探しているのがその飼い主の使用人ならばおかしくない。

ただ、猫は自分が呼ばれているにも関わらず、すっかりリラックスしている様子でオリビアの腕の中にいる。その様子にルーカスは何だか腹が立つ。


「きっとそうでしょう。オリビア殿。その猫を私に渡していただけますか?」

「え?」

「猫を助けていたとは言えど未婚の男女が人気のない夜の庭園で二人だけというのは良くない。私が猫を帰しておきましょう。」


「確かに、そんなことになっては公爵様にご迷惑をおかけしてしまいますわね。」


「私ではなくオリビア殿に不名誉な噂が流れるといけない。猫は私が責任をもって帰しておきます。」

いくらオリビアに落ち度がなくとも、時の人であるルーカスと2人きりでいたことが噂になると、嫉妬から不名誉な噂を立てられる可能性もある。それがルーカスは心配だった。


ルーカスは、オリビアに近づき、子猫を受け取ろうとするが、子猫は嫌がってオリビアから離れようとしない。

ルーカスは内心、舌打ちをしたくなったが、子猫の気持ちはよくわかる。ルーカスだってオリビアの腕の中が良い。

オリビアの体に触れないように、子猫をオリビアから引き剥がす。子猫は不満そうに尻尾を揺らし、ルーカスに抗議するが無視だ。


「さぁ。もう行って。」

ルーカスが促すと、オリビアは軽くお辞儀をして去っていく。その姿を見ながらルーカスは、自然にオリビアに頭を撫でてもらえるシチュエーションを導き出していた。


「また今度お会いしましょう。」


ルーカスは、去っていくオリビアの後ろ姿を見ながらそうつぶやいた声はオリビアには届いていない。この後、ルーカスは、オリビアの家に婚姻を申し込み、オリビアを驚かせることになる。
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