戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜
あ、あった。
広い資料室で探し物をはじめて10分後。
目的の資料を見つけたものの、自分の身長より20センチ以上高く置かれた資料を手に取るため、背伸びをして精一杯手を伸ばす。
「んー…、無理か」
あと少しのところで届かないので、脚立を探そうと思い立つ。
確か、資料室の入り口に使い古された脚立が立てかけてあったはず。
そう思って回れ右をした時だった。
「ひっ、」
誰もいないはずの資料室に突然現れた人物に、思わず悲鳴じみた声が漏れた。
「びっ、くりした…。後ろにいるなら、声かけてよ…村雨くん」
なんで、ここに村雨くんが?
先日のこともあり、あまり2人きりにはなりたくないと思っていただけに、気まずい気持ちがあるせいか、まともに彼の顔を見れない。
「中々帰ってこないので、資料探しに手こずってるんではないかと。」
「え…私のために?」
てっきり、村雨くんも業務に必要な資料を探しにここにきたと思っていたので、彼がここにきた理由を聞いて拍子抜けする。
「ありがとう…もう資料は見つかったから大丈夫よ」
たった10分、席を離れただけで心配してくれるなんて、村雨くんって実は良い人なのかも。
掴みどころがない村雨くんの意外な一面を知って、少しだけほっこりした気分を感じたまま、脚立を取りに行こうと彼の隣を通り過ぎようとした時だった。
「ま、あんたと2人きりになれる絶好のチャンスをみすみす逃すわけにもいかないしな」
「えっ…村雨くん?!」
すれ違い様に右腕を掴まれ、そのまま資料がぎっしりと詰まった本棚の前まで連れて行かれてしまった。