戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜
「それは今もそう。いきなり村雨くんが大企業の御曹司だの、結婚を前提に付き合えだの言われても、すんなり頷くことなんてできないし」
「ストップ」
村雨くんとの交際なんて無理。
そう告げようとした私の言葉は、瞬時に遮られてしまった。
頭の回転が早く、察しの良い彼のことだ。私の言わんとすることを理解したんだろう。
でも、それを無理やり遮ったということは、私の返事を受け入れる気はないという意志の現れとも取れる。
「これじゃあ、俺の素性を直前まで秘密にしててもあまり効果はなかったようだな」
「…ごめんなさい」
こういうとき、彼の状況把握能力の高さには頭が上がらない。
これまで何人もの男性の誘いを断ってきたけど、何度経験しても心苦しくなるのだ。
特に、村雨くんはこれから先、一緒に仕事を共にしていくわけだから、断るのにも言葉選びが大切だろう。
「はぁ。アンタのペースに合わせようと思ったが…やっぱこういうのは性に合わねーってことだな」
「え?」
伏し目がちだった目線をあげると、いつの日か見た、獣のような瞳をした村雨くんと目が合った。
まるで、ママゴトのような疑似恋愛は終了だと言いたげな、その表情に私の心はドクンッと大きな音を立てる。
「ここにアンタがきた時点で、正式に俺たちの結婚は決まってたんだぜ」
え?は?
ちょっと何言ってるかわからないんですが。
豆鉄砲を食らったようなアホヅラを晒している私の目の前で、村雨くんは何もかもを手に入れた帝王のように口角をあげて微笑んでいた。