戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜
「別に楽しくもないのに、楽しそうにするメリットがないので」
「お前になくても、お前の発する負の空気が周りに伝染するって話だよ!社会人なんだから、少しは周りに気を使え!」
「業務中であれば善処しますが、ここは宴会です。その必要はないかと」
「お前なぁっ」
あー…最悪。
村雨くんは私の直属の後輩だ。
彼の仕事ぶりも、こういった社会性の乏しい彼の個性も、人事部の中では理解している方だと思う。
元々、村雨くんは今日の歓迎会には不参加の意思を示していた。
それを、人事の同僚たちは止めることもなく、当たり前のように受け入れていた。
人付き合いの悪い彼だからと。
分厚いメガネをかけ、前髪も重く、なにを考えているのか読めず、扱いにくい彼が歓迎会に来ても支障はないからと、歓迎会に誘うこともしなかったのだ。
そんな中、彼をこの宴会に誘ったのは私。
誘った瞬間に断りを入れた彼を、無理矢理にこの場に引っ張り出した張本人として、こうやって村雨くんが同僚たちに説教をくらっている姿を見ると、心が痛む。
なんとか、この状況から村雨くんを助けないと…
「北川は自慢の部下だ!こうして酒の席にも嫌な顔せず付き合ってくれるし、普段の業務態度もよく、実績も良いし、周りの信頼も厚い!」
そんな時、隣で好物のバニラアイスを頬張る佐藤主任のウザ絡みが始まってしまった。
ヤバイ、今度は私が標的か…!
なんとか口実を作って、村雨くんを助け出そうとアイデアを考えていたのが遅かった。
こんな時、ちゃんと主任の相手をしないと、さっきみたいに激昂した主任の一人劇場が再開するのは目に見えてる。
「なんですか、主任〜。そんな褒めたって、私からなにも出てきませんよ」
「あちゃ〜バレたか?もう一杯、ビールが出てくるのを期待したんだがなぁ」
「もう最終注文は終わってしまったので残念でした。それに、それ以上飲むと、家に帰れなくなっちゃいますよ」
「ハハッ、それはいけないな!…それにしても、村雨の野郎、一口も俺との晩酌に付き合わないとは…北川、村雨の元・教育係として、ちゃんと酒の席での上司との付き合い方をアイツに教えとけ!」
まだ村雨くんの態度が気に食わない様子で、主任は村雨くんの愚痴を始めた。
酔ってるからここで真面目な返答を返したところで、主任が覚えてるわけでもないし…
適当に受け流そう。