戀〜心惹かれる彼が愛したのは地味子でした〜
「主任、ビールがないからってヤケですか?」
「ヤケでもなんでもいい!あんなに付き合いの悪い部下は初めてだ!」
まぁ、佐藤主任が村雨くんにヤキモキする気持ちを抱えるのも分からないわけじゃない。
彼は地味で無口だが、頭の回転はずば抜けて良く、仕事ぶりは優秀なのだ。
それがわかっている主任だからこそ、彼の社会性のなさがもったいない、と思っているというのが主任の本音なんだろう。
私もそう、思っているし。
「まぁまぁ、主任がそうカッカすることじゃないですよ。あ、追加のバニラアイス、来ましたよ」
「さすが北川!村雨と違って気が利くなぁ」
先を読んで追加で頼んでいたバニラアイスを渡すと、アイスに夢中になった主任を他所に、私は村雨くんのいる方へ目線を向ける。
あれ?村雨くん、いない…?
辺りを見回しても、先ほどまで自分の席にいたはずの村雨くんの姿はない。
「ね、ねぇ、宮田さん。村雨くんは?」
「ああ、村雨くんなら、坂木さんたちの説教中に機嫌を損ねたみたいで、帰りましたよ」
「えっ…帰ったって、いつ?」
「ん〜…ほんとについさっきのことなんで」
ついさっき、ということは、まだ追いかければまだ間に合う?
飲み会嫌いな村雨くんに嫌な思いをさせておいて、フォローできないのは、良心が苦しい。
ここに留まって主任の相手をするのか、村雨くんを追いかけるのか、悩む必要もなかった。
「私、ちょっとお手洗いに。二次会は出ないことになってるから、お開きになったら私のことは気にせず出てって皆に伝えておいて」
「え〜北川さん、二次会パスなんですか〜?つまんない〜」
「ごめんね!この埋め合わせはまた今度」
じゃ、と名残惜しさを前面に出してくれる可愛い後輩たちと別れて、私は村雨くんを追いかけるために会場を出た。