消えた卒業式とヒーローの叫び







 日彩が隣の席で良かったと、心底思った。いつの間にか息をしていない自分がいて、手は固く拳を作っている。


 首を締められていた手から解放された時のように、私は肩で呼吸を繰り返していた。

 エンドロールが流れる、まだ薄暗いこの空間で、私の様子を知っているのは、隣で涙を流す彼女一人だろう。

 それほどに素晴らしいものだった。

 色鮮やかな絵と、映画館全体を通した壮大な音の響き。肌にビシビシと伝わる臨場感。展開に合わせて同時に盛り上がっていく音楽。叫ぶように広がる登場人物たちの声。

 何よりストーリーの流れが観ている人を引き込んだ。

 序盤に大きな謎となるものを持ち込み、それによって〝気になる〟という感情を引き出す。

 それからも、季節が変わる事に種を撒くことで、四季折々の花を楽しめるように、小さな仕掛けを残していく。

 最後に摘まれた花たちは、花束となって偉大な作品を作り上げるのだ。

 この作品はまさにそうだ。

 滑らかな動きとその見せ方も、当然ながらプロのものだった。

 到底敵う相手ではないとわかってはいても、何か得体の知れない汚いものが胃の中をぐるぐると掻き乱して、首から上が熱い。

 鼻をすする日彩にティッシュを渡すと、丁度エンドロールも終わり、温かみを帯びた照明が現実への扉を開ける。

 ふと日彩の奥に並んで座る人の横顔が見えた。エンドロールが終わっても、未だ見えない世界に浸るように、灰色の画面を見つめている。

 上原くんだ。


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