消えた卒業式とヒーローの叫び
「あ、あれじゃね? おーい前田さーん!」
騒がしい中で、一際目立つ大きな声の持ち主が、こちらに手を振っている。誰かは見る以前からわかっていた。
それは三人の定位置かと思えるほど綺麗な並びだった。ファー付きで深緑のロングダウンコートを羽織る上原くんを中心に、高身長の二人が横に並ぶ。
「ごめん、待った?」
「う、ううん……」
上原くんの問いに、今度はしっかりと否定することができた。ただそれは口の中で発せられた言葉だ。音で溢れた世界で、私の声が空気の波を泳ぎ切ることは不可能だろう。
「あ、お姉ちゃんの友達ですよね? 初めまして、妹の前田日彩です。今日は勝手に付いてきてしまってすみません」
ノートを両手でパタリと閉じた日彩が、私の隣に並んで挨拶をする。愛想良く笑うその子と、私の怯えたような表情は月とすっぽんだった。
「あ、妹さんも来てたんすね! 吉岡流星っす! よろしくっす!」
相変わらずの穏やかな雰囲気で、吉岡くんは日彩に笑いかけた。日彩の方も、同種だとでも言うように「よろしくお願いします」と頭に生えた尻尾を振る。
その後、大賀くんも挨拶を交し、上原くんに対しては先日商店街で会えたことへのお礼を述べていた。
クールな大賀くん、まだよくわからない上原くん、元気な吉岡くんと、日彩は出会って数分のうちに打ち解けてしまっていた。
私と過ごした時間の方が、多少は長いはずなのに。あの愛嬌は天性の才能なのではないかとすら思ってしまう。
「そろそろ行くか。席も取らねぇと」
上原くんが先導して映画館へと向かう。三人が先程と同じ並びで進み、その後ろを私たち二人が歩いた。
吉岡くんと大賀くんは、時折振り返って日彩と楽しく話をする。
急に虚無感が私を襲った。私がここに同席する意味とは何だろうか。
顔もうろ覚えである段階で、私の代わりに顔のよく似た日彩を送り込めば良かったのではないだろうか、などとくだらない会議を一人脳内で繰り広げていた。