消えた卒業式とヒーローの叫び
「昨日言った、前田永遠さん。……って、何笑ってんだよ」
私を部員に紹介しようとする上原に対し、何故か悪巧みをするような目で笑うハイテンション男子。隣のクール男子も鼻で笑っているように見えた。
「いや〜なんでもー! 前田さんっすね! 俺は吉岡流星っす! 上原とは中学から一緒なんすよー! よろしくっす!」
吉岡は、まともに目も合わせられない私に、楽しそうな表情で挨拶をしてくれた。ここまでテンションが高くはないが、誰かさんに似ているなと、瞼の裏に可愛らしい笑顔が思い浮かぶ。
「俺は大賀歩です。同じく上原とは中学からの友達で、ここでは副部長してる。割と機械関係得意。よろしく」
大賀は、見た目通り静かな紹介だった。ザ・理系という印象が強く、機械関係が得意なのも頷ける。
個性派揃いの部だ。それにしても、何故上原との関係を述べるのか、私にはわからなかった。上原とは商店街で会ったきりだったが、友達か何かだと思われているのかもしれない。
二人の紹介が終わった後、吉岡に急かされた上原は、頭を掻きながら自己紹介をした。
「この前も言ったけど、上原康助です。一応部長してます……」
それから少し間があり、教室が静まり返った。元より四人しかいない部室で、自己を紹介する本人が黙ってしまうと、先へは進めない。
そんな空気が面白かったのか、吉岡が吹き出して笑った。からからと笑う声により、緊張感が解けたのか、上原は吉岡を睨み、また表情を戻して私の方に顔を向けた。
「いや、その……永遠とは初めましてだよな?」
その言い草に疑問を抱くも、私の記憶上にこのような声で黒縁の眼鏡を掛けた男などいなかった。誰かと勘違いしているのだろう。
「うん……」
イエスかノーでしか反応できない自分が嫌になる。本当はしっかりと答えたいのに、言葉が喉の奥に引っかかって声に出せない。
私の返答に、上原は何故か安心したように肩から力を抜いた。