It's not you
 いつからか、私はあなたが見えなくなっていた。

 二人で探し回った狭い部屋。隠れんぼなんか出来っこないのに。

 疲れはてて帰っても、あなたの笑顔を見るだけで私の心は満たされていたのに。

 夜の虫が鳴く声。開けた窓の外、ベランダで煙を燻らせる背中は私が居ても居なくても変わらない。

 そこから見える景色を、二人で並んで見た記憶が残像として残っているだけ。

 何度目か数えるのも躊躇う溜め息を吐く。

 彼は気付いていないように白い煙を吐く。

 きっと、変わったのは私の方。

 最初の内はそんなこと思えなかったけれど、少しずつ気付きはじめた。

 いつからか、あなたにしてほしい事が増えて。

 いつからか、あなたに強要する事が増えて。

 あなたの為だと、二人の為だと、声を荒らげるようになった。

 あなたは私に疲れた顔を向けた。

 私は変わってくれないあなたに疲れていた。

 私への気持ちが変わってしまったあなたに怒っていた。

 ……私は、そんな私に疲れていた。

 変わったのは私の方だった。

 あなたじゃない。

 彼の隣に並んで思うのは、幼かった自分が抱いていたものとは随分かけ離れたもの。

 新品の煙草を奪い取って火をつける。

 なんともない顔で不味い煙を吐き出した私へ、あなたが向けた驚いた間抜け顔。

 それは初めて会ったままの顔で、私は苦しさに涙が溢れた。

「今まで、ごめんね」

 彼の手にある煙草は、もうすっかり短くなっていた。
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