甘くない恋の協奏曲 -Track.1 ホウキボシ
Aメロ

転校生

私は、沈黙を通しきっている父さんに声をかけた。
「父さん、あのさ──」
「何も言うな。…自分がやりたいことをすればいい」
「っ、でも…」
「家のことはいい、俺がなんとかするから」
 私は、これ以上何を言っても無駄な気がして口をつぐんだ。
「………ありがとな」
 父さんの小さな呟きが聞こえ、私は顔を上げた。
「言われなくても、分かってるし」
 しばらくして、車が止まる。
 私は車を降りると、窓をコンコンと叩いた。
 窓が開く。
「何だ?」
「……待ってて。絶対…有名になる」
「…ふっ、おう、家計の支えになるの、楽しみにしてる」
 じゃな、と父さんは車を走らせる。
 テールランプが、遠ざかっていく。
「……迷惑はかけないから」
 小さく呟き、私は踵を返す。
 ───私は高槻(たかつき)絢音、今日…ここ、春蕾(しゅんらい)音楽学校高等部に転校してきた。


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