愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
「あの時は、咲花に取ってやらなかったっけ」
「いつか機会があったら、私にだけ取ってもらおうって思ってたんだ。まさか夫婦になってから、機会が巡ってくるとは思わなかったけれどね」

そんな可愛いことを言う咲花を、俺は今すぐ抱き締めたい衝動を抑えた。

「この先はどうやっても、咲花以外には親切にはしないよ」
「ふふ、嬉しいな」

咲花はクッションをぎゅっと抱え、微笑む。

「あのね、すごく幸せ」

子どもみたいな笑顔をしている。幼くて隙だらけで。咲花を知る人は彼女がしっかりした大人の女性だと思っているだろう。
だから、俺以外は誰もこんな顔を見たことがないのだ。

「うちの親も佑のご両親も、私たちを祝福しない。勝手に引っ越して、結婚する宣言して。きっと親不孝者よね。帰ったら、スマホに大量のメッセージや着信が来てるはず」
「かもしれない。だけど、俺と咲花の人生は親のものじゃない」

俺が断言すれば、咲花は深く頷く。

「うん、そうなの。そう思うの。だから、わくわくするのよ。私たち、この遅い反抗期を押し通して、親からようやく自立したんだ。自由って思ったより不安じゃないのね。嬉しくて浮足立つような気持ち」

俺は咲花の肩を抱いた。愛しい愛しい咲花。

「ずっと一緒よ。私たちの未来は私たちのもの」

ああ、そうだ。俺たちは離れはしない。
心の中で新たに誓うと、勇気が湧いてくるようだった。


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