愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
会社に迷惑がかかるなら、辞めた方がいいのかもしれない。
今日の両親の襲来から、半日そう考えながら過ごした。

帰り道、通用口から出たところで、辺りを見回す。大丈夫、誰もいない。
ため息が出た。父と母は、また来るかもしれない。私が折れるまで何度だってやってくる。
話し合う余地がないのだ。

「どうしよう」

呟いて駅まで歩く。
赤ちゃんが安定期に入るまで、ううん、無事に産まれるまでは平和に暮らしたい。説得が難しい相手と神経をすり減らして渡り合うことはしたくない。なにより、私に宿った命は両親からしたら邪魔な存在だ。何かされたら……。
ああ、実の両親にこんなことを考えたくないのに。
だけど、私にとって大事なのはこの子。この命が何より大事だ。
この子を守るためなら……。

「咲花ちゃん」

呼ばれて顔を上げると、改札のところに立っていたのは佑のお母さんだった。

「おばさま」
「少しいいかしら」

今日はなんて日だろう。断ることも逃げることもせず、私はおばさまと駅に近い喫茶店に入ることになった。

「お元気?」

おばさまは窺うように私を見つめる。少しおどおど遠慮がちに見えるのは、わざと下手に出ようとしているのだろうか。

「はい……佑も私も元気です」

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