愛妻御曹司に娶られて、赤ちゃんを授かりました
「私たち、夫婦になるのも突然だったけれど、もうじきパパとママになるのね」
「一年前は想像もつかなかったな」
「そうよ。一年前の今頃よ、私と傑が婚約破棄して、佑が謝りに来たの」

縁というのは不思議だ。俺は咲花をずっと大事な妹だと思ってきたけれど、今自分の妻として彼女といられることは最良のことだと思う。
咲花を幸せにできるのは俺だけだし、俺の幸福も咲花と産まれてくる子どもにあるのだ。


宿泊を予定している温泉宿は少し値の張る有名旅館を予約した。
庭園を臨める部屋は広々とした和室で、一応この旅館では一番ハイクラスな部屋だ。それを言うと咲花がまた気を遣うので、言わないけれど。

「早速、温泉に入ってくるね。楽しみ~」
「気を付けてな」

風呂にまではついていけないので、声をかける。部屋風呂もあるけれど、咲花は大浴場や露天風呂を楽しみたいだろう。
風呂からあがってくるとさすがに疲れたのか、座椅子を枕に眠ってしまった。妊婦の身体は俺が思う以上に疲れるようだ。最近は夜に胎動で起きることもあるらしい。咲花が持参したブランケットをかけて、彼女が起きるまで俺はのんびり読書した。
こんなふうにゆっくり時間を過ごすことは、俺自身も久し振りな気がした。
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