予備校前で会いましょう
次の予備校の日は、晴れだった。梅雨の晴れ間というやつだ。

念のため傘立てにあの傘がないのを確認すると、わたしは受付の事務員さんに訊いた。
「こういう名前のひと、いますか?」
メモをちぎって、"千種公仁"と書きつける。読みかたに自信がないからだ。
チクサキミヒトかもしれないし、チグサコウジンかもしれない。

「ああ……千種《ちぐさ》くんね」
「どこの! どこのクラスですかそのひと!」
思わず受付に乗りだして叫ぶと、事務員のお姉さんは困った顔をした。
「ごめんね。個人情報だから、私からはあんまり詳しく教えられないの」
「わたしの傘を盗んだひとなんです。学校名だけでも教えてください」
「うーん、成績優秀者とかでその辺に貼られてないかな? 私からはこれしか言えないけど」

事務員さんのヒントを元に、わたしは壁に貼られている模試の成績優秀者一覧を舐めるようにチェックした。全学年ぶん。
そして、チャイムの鳴る直前にその名前を見つけた。
「高2東北統一模試 英数国 第4位 千種公仁」
しかも県内トップの東高の名が併記されている。
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