皇女殿下の幸せフェードアウト計画
それは声とは名状しがたいナニカが頭の中に響く。

驚いてあちらこちらに視線を彷徨わせたお姉様と私を制したのは、陛下だった。

「……『恩恵』を得た人間が初めて石板に触れた時、一度だけ神がお言葉をくださるのだ。二度はないが、大変光栄なことだ」

「そう、なのですか……」

「神からの啓示を胸に赤子が正しく成長できるよう周囲は見守り、導く。……リリスは、すでに正しくあったのだろう」

感慨深げに陛下が笑みを浮かべたのを、私はただ見ているしかできない。

ちなみに陛下は恩恵をお持ちではない。お持ちではないのにこれだけすごいからこそ、国民すべてが心酔するんだけどね。

いまだ茫然としているお姉様を、陛下が眩しそうに見ているのを見て、これは良い兆候だと内心喜ぶ私の胸が、つきんと痛んだ。

(……いいのよ。前世も親の愛は得られなかった。今世は……前よりも、マシだもの)

お母様は、女としての愛を結局優先したけれど、私のことも大切に思ってくれていた。

リリスお姉様は、大事な妹として可愛がってくれている。

衣食住には不自由していないし、学ぶことも喜ばれるし、殴られないし傷つかない。

前世に比べたら、とんでもなく満たされているじゃないか。

だから、陛下の眼差しが、あの優しさに満ちた目が私に向けられなくたって、その程度耐えられる。

(そうよ、リリスが女帝になったら陛下だってそっちの方が嬉しいんだから)

私は、陛下にも幸せになってもらいたい。

まだ具体的にはやっぱりなにもわからないけれど、私がわかっている範囲でできることを少しずつ頑張って……お母様を幸せにできたように。

そうして私は、表舞台から消えられれば、いいんだから。
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