秘密の懐妊~極上御曹司の赤ちゃんを授かりました~


「あら。翔悟じゃありませんか」


よく通る落ち着いたその声は会長のもの。しかも靴音がゆっくりと近づいてくるのを耳が拾い、その上、「こんばんは」と挨拶を返した翔悟さんがピリッとした空気を放ったため、嫌な緊張感に襲われる。


「あなたとこんなところで会うなんて珍しいわね。夕食がまだなら一緒に……」


ふふっと軽やかな笑い声を交えながら紡がれた言葉は、途中で不自然に途切れた。嫌な予感と共に顔を上げて、私はやっぱりと凍り付く。翔悟さんの目の前まで歩み寄ってきた会長の瞳に、私はしっかりと捕らえられていた。

バレているのなら、翔悟さんの後ろに隠れていても仕方がない。恐怖心に必死に耐えながらも、私は翔悟さんの斜め後ろへと進み出た。

本当ならば横に並びたいところだけれど突き刺さる視線が痛くて出来ず、こうして姿を晒した今も、値踏みするかのような眼差しに体が竦む。

なんとか頭を下げると、ふんっと鼻を鳴らされる。挨拶を嘲笑で返されたようで、私は俯いたまま唇を噛んだ。


「あら。先客がいるようね。それなら私は引き下がりましょう。……けどね、翔悟。遊びは程々に頼みますよ」

「会長」


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