秘密の懐妊~極上御曹司の赤ちゃんを授かりました~

必死に声をあげて否定しても、ちゃんと聞いてもらえない。歯痒くて腹立たしくて、自分が情けない。

怒りで頭が沸騰しそう。このままここにいたらおかしくなってしまう気がして、私は「失礼します!」と不機嫌に言い放ち、踵を返した。

すぐに「待ちなさい!」と会長の声が追いかけてきて、戸口にたどり着く前に秘書の女性に左腕を捕まれる。手を振り払おうと揉み合いになる中、体の中が変にざわめき出す。くらりと視界が揺れ、呼吸が荒くなる。改めて、パンケーキの甘ったるい臭いが鼻につき、吐き気を覚えた。

思わず右手で口元を押さえ俯くと、秘書の女性が驚いたように私から手を離し、顔を覗き込んできた。

世界が白けて立っていられなくなり、足がよろめく。手から力が抜けてトートバッグが床へと落ちた。その場に崩れるように座り込み、声をかけられても答えることができないほどの気持ち悪さで動けないでいると、誰かが私のそばで立ち止まった。


「あなた、まさか……」


そっと視線を昇らせると、蒼白な表情で私を見下ろす会長がいた。見つめ合いながら、私も頭の中で「まさか」を繰り返す。


「月のものは問題なく?」


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