お見合い夫婦のかりそめ婚姻遊戯~敏腕弁護士は愛しい妻を離さない~
私と拓海が出逢ったのは、学生時代に所属していたボランティアサークルだった。
拓海は学内の有名人だった。
芸能人のように華やかな外見で、実家は有名な弁護士事務所。彼自身も、大学在学中に司法試験に合格してしまうような頭脳の持ち主で、将来も約束されている。その上、気さくで気取らない性格の拓海は、とにかくモテた。
拓海とは、サークルでの活動中や飲み会などで言葉を交わすようになり、少しずつ親しくなっていった。その頃の私は、大学の勉強や囲碁の修業、アルバイトに忙しく、恋愛どころではなかった。もちろん拓海も、気の合う友人の一人に過ぎなかった。
あれはたしか、大学4年の秋の終わりの頃だった。サークルで、ちょっとした飲み会があったのだ。
当時私は、囲碁のプロ試験の真っただ中。夏から始まった予選をなんとか勝ち上がったものの、本選ではかなり苦戦していた。
プロ試験の間は毎週末のように試合があり、長い期間緊張状態が続く。その上、その年の春に亡くなった祖父から引き継いだ囲碁教室の経営が思わしくなく、私は今では考えられないほどカリカリしていた。そんな私のことを見かねたサークル仲間の絵梨が、「たまには気分転換したら?」と誘ってくれたのだ。
しかし、飲み会が始まって30分ほど経った頃、私は早くも来たことを後悔しはじめていた。