好きなんだから仕方ない。
これを渡せば出ていってしまうかもしれない。もう帰ってきてくれないかもしれない。王族を辞め、一人の女として生きていってしまうかもしれない。でも、それでも彼らの意思を尊重した方が。
叩きたくない。そう願いながら廊下と繋がっているエイミア様の自室の扉をゆっくりと五回叩いた。
寝ていてほしい。そう思っている時に限ってエイミア様はどうぞと返事をしてくださった。
扉を開け、中に入るとまだ寝間着のまま体を伸ばしているエイミア様がいた。この風景がもう見れなくなるかもしれないなんて。

「決心してくれたのですね、試練の事」

「時間が掛かってしまい、申し訳ありませんでした」

「いえ、ありがとうございました。・・・辛かったでしょうに。早く気付けなくてすみませんでした」

兵士たちは謝らないでと頭を下げたエイミア様よりも深く頭を下げた。
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