寂しい姫と不器用王子
各々自分のかき氷を食べて、花火がよく見える位置に移動することにした。また屋台の通路をくぐらないといけない。人混みで、はぐれそうだ。
「姫莉、はぐれるといけないから…」
と、手を握る。
少しだけ姫莉が顔を赤らめた気がした。
暑いだけかな。
人のあまりいない、秘密スポットへと来た。穴場を事前にリサーチしてきたのだ。
少し遠いけど全体が見えて、人混みも避けられる。
花火が上がり始める。
1度手を離して、恋人繋ぎをしてみた。
姫莉は俺の方を見上げて、不思議そうにした。
「好きだよ」
「え?なんて?」
花火の音で、俺の声はかき消される。
口を耳元に近付けた。
「好きだよ、付き合ってほしい」
花火が上がる。俺は姫莉と至近距離で目を合わせる。
彼女の顔が赤いのは、花火が赤いせいなだけじゃない。
「私は…」
「うん」
目を伏せて口ごもってしまった。
「いいよ、まだ分からなくて。いつか好きになってよ」
何も言わず、ただ瞬きをした。
していいのか迷った、でも理性が止まらなかった。
唇を重ねた。
柔らかな姫莉の唇が、俺の唇を受け止めてくれる。
俺の胴体に腕を回してくる。
俺も続いて、姫莉の腕を掴む。
花火が終わって寮に戻る時も、恋人繋ぎのまま。
寝るのも、向かい合って寝た。
だけど依然として彼女からの好きと、名前を呼んでくれることは無かった。