その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
笑顔の広沢くんの隣で、私は複雑な気持ちになっていた。
もし今日が、本社異動する広沢くんとの最後の晩餐になってしまったら……
次にあの店を家族と利用するとき、哀しい思い出が付き纏うことになってしまう。
それなのにどうして、広沢くんはあの店を予約したんだろう。
彼の意図が私にはよく理解できなかった。
車をレストランの駐車場に停めると、助手席のドアを開けてエスコートしてくれる広沢くんの手をつかむ。
そのまま手をひかれて店の中に入ったけれど、普段よりも高いヒールの靴を履いた私の足取りは重かった。
「れーこさんは、ワインかなにか頼みます?」
注文するコースやメニューを主導で決めてくれた広沢くんが、ドリンクメニューを私に差し出す。
「広沢くんが飲めないし、辞めとく」
「遠慮しなくていいですよ」
広沢くんがもう一度笑顔で勧めてくれたけど、正直なところあまりお酒を飲みたい気分ではなかった。