その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―


「何でもない。これからどこに食べに行くの?」

広沢くんが少し豪華なところに行く、というから、今日はライトブルーの綺麗目なワンピースを着てきた。

足元は滅多に履かないシルバーのヒールの靴。鞄も、最近までクローゼットで眠っていたブランド物のクラッチバッグを出してみた。


「今日は、付き合う前にれーこさんとデートで行った、カジュアルフレンチのお店を予約しておきました」

「え?」

広沢くんが予約してくれていたのは、もう半年以上も前に、私が彼にお勧めした店だった。

お洒落だけど気張るほどには畏まっていなくて、そこそこお高いけれど決して無理しすぎないお値段で、美味しいコース料理が食べられる。

私の家族のお気に入りで、誕生日など家族の特別なイベントのときには必ず利用する、我が家にとっては思い入れのある店だ。


「他の店にするか迷ったんですけど……前にれーこさん言ってたでしょ。そこの店は、家族の特別なイベントとかお祝いで使うって。だから、そこに決めちゃいました」

信号が青に変わるのに合わせて、広沢くんが前を向く。

< 166 / 218 >

この作品をシェア

pagetop