その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
私と広沢くんの職場での立場は、仮にも上司と部下だ。
社内恋愛禁止の職場ではないけど、あまりに年が離れているし、オフィスでは呼び方に気を付けて、プライベートだって持ち込まない。それが、付き合っていくうえでの私たちの取り決めだった。
それを一応は守ると約束してくれた広沢くんだけど、隙を見つけたときや、ふたりだけになったとき。彼の仕事とプライベートの境界線はかなり怪しい。
「広沢くん、仕事中」
「れーこさん、俺が新人のときはあんなに優しく笑いかけてくれなかったですよね」
もう一度注意すると、広沢くんが不貞腐れた声でそう言った。
その言い方が子どもみたいで、なんだか吹き出しそうになる。
「何それ。だって、今年の新入社員の子たち、私とほぼひとまわり離れてるのよ?広沢くんたちのときとは、全然見え方が違って当たり前じゃない。後輩って言うより、甥っ子とか姪っ子とか、そういう対象でも見ているような感覚っていうか」
なんだか可愛く見えてしまう。