その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「ありがとう。礼子のこと、これからよろしくお願いします」
父が穏やかな目で広沢くんを見つめて頭を下げかける。そのとき、それまで私たちの話をどうにも煮えきらない顔で聞いていた美耶子が口を開いた。
「ちょっと待って、お父さん。そんなあっさり、この人にお姉ちゃんのこと任せていいの?」
「美耶子……」
いい雰囲気で終わりかけていたところに美耶子が乱入してきたことで、和やかだった空気が一気に吹き飛ぶ。
「籍入れてすぐしばらく別居って、本当に大丈夫?お姉ちゃん、不安じゃないの?この人、お姉ちゃんよりも若いし、転勤した先で新しい出会いもあるかもじゃん。そうなったら、バツついてもいいってくらいの覚悟なの?」
「ちょ、美耶子……」
「ママ?」
興奮気味にテーブルにドンっと手をつく美耶子を諫めるように、誠司くんがそっと腕を引っ張る。
乃々香も、見たことのない類の怒りの表情を浮かべる美耶子のことをやや怯えた目で見ていた。