その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「だから、それは昨日も一昨日も教えたじゃない。1度教えたことはしっかり覚えてよ。忘れちゃうなら、ちゃんとメモを取りなさい」
様子を見るために近付くと、秦野さんがヒステリックな声をあげている。
「秦野さん、どうしたの?」
彼女はこんなふうに声を荒げるタイプじゃなかったはずだけど。
ちょっと心配になって肩を叩いたら、私を振り向いた秦野さんの表情が泣き出しそうに歪んだ。
私の顔を見て気が緩んだのか、彼女が必死で目に潤む涙を堪えているのがわかる。
「いえ、何でもないです。私の指導不足なだけなので」
教育担当という自分の立場を彼女なりに理解しているのか、秦野さんは新城さんのミスを責めることなくそう言った。
これまでの秦野さんは、言葉足らずな言い訳で問題から逃げ出そうとすることが多かったから、今の対応で彼女のことをちょっと見直す。
でも、秦野さんのデスクに散乱した未対応の仕事の山を見ると、少し休ませてあげたほうがいいのかなとも思った。