その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―



「ごめんなさい、広沢くん。やっぱり、ミーティングブースに移動していい?」

迷いながらそう言って移動しようとすると、広沢くんはにこりと笑ってすぐに後をついてきた。

企画部には、給湯室の近くにブースで仕切られた、小さなミーティング用スペースがある。

会議室を使用するほどではない社員同士の相談や、来客用に設けてあるもので。

誰かが使用中は他の社員も寄り付かないので、よくいうと、ちょっとしたプライベート空間にもなりうる。

広沢くんを先に座らせて、テーブルを挟んで向かい合うように反対側に座ろうとしたら、誰もいないのをいいことに、彼が私の手をつかんで引っ張ってきた。


「隣の椅子が空いてますよ?」

「ふざけないで」

仕事の打ち合わせするのに、ミーティングテーブルで椅子を隣同士して仲良く座るバカがどこにいるのよ。

ジロっと軽く睨んだら、広沢くんが私の手に悪戯に唇を押し付けて、それから笑いながら離した。


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