その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
「何、急に?私が頼んだ仕事なのに……」
「それより、俺がお願いしたこと、覚えてくれてます?」
桐谷くんの背中を見送りながらボソリとつぶやくと、広沢くんが何故か威圧感のある笑みを浮かべて訊ねてきた。
「確認頼まれたことなんてあった?メールも届いてないみたいだけど……」
「そんなはずないですよ。見ていいですか?」
メールをチェックしながら首を傾げていると、広沢くんが私の椅子の横に回ってきて、マウスを持つ手に手を重ねてきた。
「ちょっと、近……」
距離の近さに抗議しようとする私の声を無視して、広沢くんが私の手ごと一緒にマウスを動かす。
「あー、これだ」
そうやってマウスを操作して広沢くんが画面に開いたファイルは、部署内共有のフォルダに入っていたもので。メールに添付されてきているものではなかった。
「やっぱり、何も送ってきてないじゃない」
「これから送ろうと思ってたんです。でも、れーこさんが俺の言うこと聞いてないから」
視線だけ動かして広沢くんを睨むと、彼がパソコンを見つめたまま涼しい顔でそう答える。