その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―
駅の改札を入ったところで、私と桐谷くん、それから菅野さんと秋元くんはそれぞれ電車に乗るために二方向に分かれた。
すぐにホームに入ってきた電車に桐谷くんと一緒に乗り込むと、車内はそこそこに混んでいた。
桐谷くんと車内の奥まで進んでいくと、吊革をつかんで並んで立つ。
「今日は楽しめた?」
電車が動き出しのと同時に訊ねると、桐谷くんが私を振り向いた。
「はい、楽しかったです。ありがとうございました」
吊革を持ったまま、桐谷くんが礼儀正しくぺこりと頭を下げる。
彼は誰に対しても素直で誠実な好青年だ。
これからひとりで業務を担うようになったら、きっと取引先からも高く評価してもらえるんじゃないかと思う。
「それならよかった」
桐谷くんの近い未来を勝手に想像して保護者気分で薄く微笑んだら、彼が不思議そうに首を傾げながらも笑い返してくれた。
「碓氷さんは楽しめましたか?」
「え?」
吊革を握り直して正面を向こうとしたとき、桐谷くんが不意に問いかけてくる。