その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―


作業台の残りの汚れをさっと拭き取ると、無言のままに水道でフキンを洗う。

フキンに染み付いたコーヒーの汚れを落とそうと力を入れて擦ったら、左手の甲が少し痛かった。

桐谷くんの言うとおりだ。

私は広沢くんと新城さんの噂なんて知らないし、秦野さんとの噂のときみたいに、広沢くん本人から、そのことに関する言い訳をまだ聞いていない。

いつまでもじゃーじゃーと水道を流しながらフキンを水にさらしていると、いつの間にか隣に立っていた桐谷くんが水を止めた。


「それ、しぼります。手、痛みますよね」

「あ、ごめん……」

桐谷くんに横からフキンを奪われて、うわの空になっていたことに気が付く。


「全然、大丈夫ですよ」

振り向いた桐谷くんに、にこりと微笑まれて何だか妙に恥ずかしかった。


「桐谷くん」

「何ですか?」

「桐谷くんは、広沢くんと新城さんの噂がどんな内容なのか知ってるの?」

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