その瞳に涙 ― 冷たい上司の甘い恋人 ―



こんなこと新入社員の桐谷くんに訊ねるなんてどうかしてると思ったけれど、どうしても気になった。

私の問いかけに、桐谷くんが気まずそうな顔をする。


「俺の口から話していいんですか?」

「噂なんて、誰から聞いたって一緒でしょう?」

平静を装って口元に笑みを浮かべてみせると、桐谷くんが数秒迷うように黙り込んだあと、意を決したように話し始めた。


「新歓の飲み会のあと、新城がすっごい広沢さんに絡んでたらしくて、一緒に帰ったみたいなんですよね。広沢さんと新城の帰る方向って全然違うらしいんですけど、酔っ払ってた新城が広沢さんのこと家まで送らせたみたいで。それで、広沢さんが新城に手ェ出したとか、出してないとか……そういう類の噂です」

「そ、っか」

「でも、秦野さんのときと一緒でただのデタラメですよ。家まで送らせたってこと自体、まず本当かどうか怪しいし。広沢さんはたぶん、そんなことしない」

視線を落とした私を、桐谷くんが必死にフォローしようとしてくれているのがわかった。

< 89 / 218 >

この作品をシェア

pagetop